よく知られる話ですが、女優であり映画プロデューサーとしても活躍した水の江瀧子さんは「死んだあとに葬式するのでなく、生きている間にみんなの顔をみておきたい」という気持ちから生前葬を行いました。どのような形だったのかというと、無宗教式で、祭壇は各種の生花と若き日の写真を遺影として飾り、俗名の位牌を添えました。親友の永六輔さんが司会をする中、最初に水の江さんが「故人」として挨拶し、いろいろな方から弔辞をいただく。そして最後に、水の江さんが歩いて出ていくことで「出棺」として終了したそうです(1993年、78歳の誕生日の前日に行われ、各界から400人が出席)。
近年、通常の仏式による葬儀でなく、自分らしいオリジナル葬を望む人が増えてきましたが、本当に希望通り行われたのか、死後は確認できません。その点では、生きている間にとり行えば、自分の目で見られますから、安心して旅立てるといえるでしょう。といっても、水の江さんのように大がかりにするのは、家族や親族の意見や出席者の問題などがあり、現実にはむずかしさがあります。
そういう事情を考えれば、必ずしも葬儀として行わなくても、「お別れ会」のような形で、見送ってほしいと思う人たちに来てもらうのもひとつの方法かもしれません。そして、死後は、密葬にしたり、散骨にするという形も考えられます。最近は、派手になりすぎた冠婚葬祭の見直しが取り沙汰され、簡素に行いたいという人が増加し、お坊さんは呼ばない、戒名もいらないというケースもあります。ライフスタイルの多様化とともに、葬儀のあり方も自由に決める時代になったといえるのでしょう。
さて、お墓の視点からも、多様化が表れています。伝統的な和型ではなく、オリジナルな墓石を建てる人たちが少しずつ増えています。オリジナル墓石とは、たとえば、これまで実際に作られたお墓として、「洋型墓石の台座の部分に”お参りありがとう”とメッセージを刻んだ墓石」「故人の肖像が彫刻された墓石」「ビール好きの人が生前に建てたビール瓶形の墓石」、また線香立てやお花立てに工夫したものもあります。
生前にお墓を建てるメリットは、自分の意志を反映できること、満足のゆくお墓を建てるために十分な時間がとれることです。また「寿陵」(生前にお墓を建てること)は、中国では「長生きする」という言い伝えがあるそうです。逆に「縁起がわるい」などという説もありますが、いずれにせよ、どのような形で残したいかは、生前に考えて決めておけば、自分らしさを表現できます。
シングルにとって、葬儀をはじめ、お墓も含めて、自分の死後を考えることは見逃せない問題です。生きた証を残したいなら、やはり生前のうちに自己決定することがおすすめです。
斉藤弘子・長江曜子著『Q&A 21世紀のお墓と葬儀』より
|