夫の生前の希望といっても、口約束で遺言がないと、第三者に対する説得力の上で欠けてしまいます。”故人の遺志”を、わかってもらうには、生前に手紙でもよいから書いてもらっておくことをおすすめします。
遺言がない場合、故人の意志を夫側の親族に、あなたの口できちんと伝えなければなりません。あなた自身は、夫の意志「密葬」と「自然葬」について納得していますか?もし、あなた自身がそれに反対であれば、夫の意志といっても、実行しなくとも罪にはなりません。日本の法律では、故人の意志と家族の意志が同等と考えられているからです。あなた自身が夫の意志の実行をすべきだと考えているなら、夫の親族に対してそれを伝え、理解してもらう努力をしなければなりません。
ただし、密葬とは、葬儀そのものを全く行わないわけではありません。社会に対する「告別式」を行わないことです。一般の人に告知せず、家族や近い関係の人だけで葬儀をすることなのです。ここで家族という言葉に、近年誤解があります。家族を直系の核家族と狭義に考えて行動を起こすと、親族と大幅にもめてしまうのです。かつての大家族制度下の家族には、親族が当然入っているのです。意識のズレがトラブルを生んでしまいます。密葬といっても、親族には告知するのが当然でしょう。
また、自然葬(散骨)についても、伝統的な仏教的世界観の中では、理解されない面が当然と考えておいてください。散骨は、故人にとってはさっぱりしていて楽でいいと考えるかもしれませんが、49日後に納骨するのが当然と考える日本人が、現在でも数多く存在しています。日本で十年ほど前から始まった自然葬は、これまで発表されている統計データで信用できるものがほとんどありません(約千件の人が実際報告されているといわれていますが、実数は把握できません)。まだ日本でもきわめてまれな葬法です。
その上、散骨を選んでいてもその3分の2程度の人々が、実際は遺族が一部分を分骨し、墓地に埋葬したり納骨堂に収蔵したり、家庭に保管しているのが現状です。
夫の意志は、当然尊重しなければなりませんが、家族の意志や送る側の気持ちを考慮した上で、親族とのトラブルを回避する方向を見出すことも大切です。日頃夫が言っていたこと(密葬、自然葬という葬法)について、あなた自身も十分知識を身につけた上で、親族に理解してもらえるよう努力することが、後々のつき合いにもひびくことがなく、よい方法と考えられます。
斉藤弘子・長江曜子著『Q&A 21世紀のお墓と葬儀』より
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